開業当初は役員報酬を支給することは難しいかもしれませんが、事業が軌道に乗り、役員報酬を十分に支給できるようになったとき、役員報酬をいくらにすべきか悩む方も多いと思います。
役員報酬は一定の場合を除いては、一事業年度中に何度も変更することができません。
この理由は、会社の利益が出ていると、役員報酬を増やして会社の利益を圧縮すると法人税を減らすことができてしまいます。そのため役員報酬は決めた金額しかとることができず、増やしたり、減らしたりすると会社の経費(損金といいます)に入れることができなくなってしまいます。
そのため、役員報酬は十分に検討して支払う必要があります。
税理士として様々な角度から役員報酬の決め方について考えてみました。
目次
役員報酬はいくらにすべきか・・・4つの方法で最適な役員報酬を決定しましょう
生活費として必要な金額から考える方法
役員報酬として支払う金額は生活費としていくら必要なのかという視点から考えるというものです。
「家賃+食費+光熱費+娯楽費等+貯蓄=役員報酬」と考えればわかりやすい思います。
貯蓄は法人でしておいて、緊急に必要なときは法人から役員へ資金を貸付けるとい方法もあります。(この場合は決算時にきちんと返済しておくことが銀行対策上重要です)
税金と社会保険料のシミュレーションをして決める方法
たとえば夫と妻で役員報酬を支給している法人があるとします。
給与の金額で税金と社会保険料の金額は決まりますので、実際にシミュレーションをしてみます。
①社長700万円、副社長200万円の場合(単位:千円)
社 長 | 副社長 | 合 計 | |
給与の額 | 7,000 | 2,000 | 9,000 |
社会保険料 | 1,057 | 304 | 1,361 |
所 得 税 | 311 | 27 | 338 |
住 民 税 | 371 | 58 | 429 |
税金社保合計 | 1,739 | 389 | 2,128 |
②社長500万円、副社長400万円の場合(単位:千円)
社 長 | 副社長 | 合 計 | |
給与の額 | 5,000 | 4,000 | 9,000 |
社会保険料 | 735 | 609 | 1,344 |
所 得 税 | 139 | 85 | 224 |
住 民 税 | 239 | 172 | 411 |
税金社保合計 | 1,113 | 866 | 1,979 |
①と②を比較してみると、税金と社会保険料の合計は①の社長700万円、副社長200万円の方が負担が大きいことになります。
このような結果になるのは、給与の金額に対する所得税が累進課税制度という、給与が増えれば増えるほど税率が高くなることが原因になります。
社会保険料が増えると法人の経費も増えることになり、法人税は②の方が減少することになりますが、所得税の負担増加から考えるとやはりの方が税金と社会保険料の負担額は少ないことになります。
このようなシミュレーションを事前に行うことで、法人の効果を最大限に活かすことができます。
この所得を分散させて節税するという方法は、良く行われていますが、注意点としては、役員や従業員としてご家族に給与を支給する場合は、ご家族の勤務実態が必要になります。
法人の仕事を何もしてないご家族や、遠方にいる大学生の子供に仕送りとして給与を支給するなどということをすると、法人の経費として認められない可能性が高いことになります。
法人の経費として認められない場合は、修正申告が必要になったり、払うべきであった税金を払っていなかった期間に対する利息のような税金が加算されるため、余計な費用を負担することになります。
シミュレーションをする際は、税理士などの専門家にご相談ください。
税金の優遇が受けられる金額にする方法
税金を減らす優遇制度は様々なものがありますが、まずは、節税効果が高い住宅ローン控除があります。
住宅ローン控除は、正式には住宅借入金等特別控除といい、住宅ローンを組んで自宅を建てた場合や取得した場合、所得税と住民税が軽減されます。
その効果はとても高く、毎年の税金が全額還付される方も多いと思います。
この制度に関しては、合計所得金額が3,000万円を超えると、所得税と住民税の優遇が受けることができません。
また、平成30年の所得税から、給与所得者の合計所得が1,000万円を超えると、配偶者控除が使えないこととなりました。
改正前は配偶者本人の給与の金額で配偶者控除の制限はあったのですが、平成30年以後は、配偶者控除を適用する納税者の給与の金額についても制限がかかります。
配偶者控除は38万円ありますので、所得1,000万円超の方の所得税・住民税の増加額は年間17万円以上になります。
このような税制度のメリットを受けるためにも事前に税理士などに相談しましょう。
各種手当が受けれる金額にする方法
お子さんがいる場合で、児童手当を受給している場合は、児童手当が受給できる所得制限があります。
福岡市の場合は次のリンク先となります。
http://www.city.fukuoka.lg.jp/kodomo-mirai/k-katei/child/kodomoteate.html
このような手当を受けている方は事前に所得制限を超えないようにシミュレーションを行うべきでしょう。
児童手当以外にも母子手当など所得制限があるものは気を付けましょう。
まとめ
役員報酬の決め方をあらゆる考え方で考えてみました。
どのような決め方でも、最終的に法人に利益が残る金額の役員報酬にしておかなければ、法人のその後の融資などが受けられなくなる可能性があります。
目先の負担感だけではなく、広い視野で役員報酬を設定しましょう。