2019年10月1日から消費税が10%に増税され、同時に食料品や一部の定期購読の書籍について軽減税率制度が導入されました。
消費税の増税は一般消費者だけではなく、事業者にとっても税負担が増加します。
税負担の違いを次の表でみてみましょう。
改めて、消費税の計算方法としてざっくりご説明すると、
『売上で預かった消費税ー仕入で支払った消費税=納付する消費税』という計算方法になります。
例:消費税率10%で、売上500、仕入400の場合の消費税負担の違い
8% | 10% | |
①売上の消費税(500×税率) | 40 | 50 |
②仕入の消費税(400×税率) | 32 | 40 |
③納付する消費税(①-②) | 8 | 10 |
表のように消費税が8%の時は納付する税額は40-32=8ですが、
10%になると納付する消費税は50-40=10になります。
単純に同じ売上と仕入であれば、税率が上がると1.25倍の消費税の納付となり、税負担が増加することになります。
また、軽減税率は主に飲食料品について適用されますが、飲食料品とそれ以外の経費を区分して消費税の計算をしなければなりません。
そのため、今までは仕入れや経費の消費税計算で気を付けるべきことは、
『課税取引であるか非不課税取引であるか』という判断ができれば計算できていましたが、
今後の消費税の計算は、
『課税取引であるか非不課税取引であるか』→『8%であるか10%であるか』という2ステップの判断が必要になります。
ちなみに消費税の取引区分は
課税…仕入、飲食代、広告費、外注費など
非不課税…給料、税金、減価償却費など
小規模事業者にとってはこの消費税の区分計算や資料の整理はとても難しく、税理士事務所に依頼せず、自分で確定申告を行っている方にとっては厳しい状況となります。
このように今回の消費税が10%に増税と軽減税率制度の導入は小規模事業者にとって厳しい制度になりますが、今回ご紹介するインボイス制度に比べると、今回の改正の厳しさは足元にも及びません。
つまり、インボイス制度は小規模事業者に厳しい制度というより、『小規模事業者を消滅させる制度』になってしまいます。
具体的なインボイス制度の内容をご紹介します。
目次
インボイス制度で小規模事業者が消滅する⁉~消費税10%増税や軽減税率よりも危機的な制度~
インボイス制度とは
インボイス制度は2023年10月以降の制度開始のため、まだまだ先になります。
消費税の計算方法は、
『売上で預かった消費税ー仕入で支払った消費税=納付する消費税』という計算方法でしたが、
インボイス制度が開始されると、消費税の計算をするときに支払った消費税として引けるものは、『インボイスが発行されている仕入や経費の消費税のみ』になります。
そして、インボイスを発行できる事業者は消費税の課税事業者であり、消費税を納税する義務がある事業者になります。
消費税の課税事業者になるためには、一定の条件がありますが、前々年の売上が1,000万円を超える(前年半年売上1,000万円超や資本金1,000万円以上の等条件もある)か、課税事業者になるために税務署に自ら届出(消費税課税事業者選択届出書)を出している場合です。
分かりやすい例として、消費税率10%で売上500、仕入400があり、仕入400をインボイス発行事業者とインボイス不発行事業者からとで行った場合で分けています。
A 発行事業者 からの仕入 | B 不発行事業者 からの仕入 | |
①売上に対する消費税 | 50 | 50 |
②仕入に対する消費税 | 40 | 0 |
③納付する消費税①-② | 10 | 50 |
インボイス発行事業者から仕入を行った場合(A)は、②仕入に対する消費税40を①売上に対する消費税50から引くことができるため、残りの10を納付することになります。
対して、インボイス不発行事業者からの仕入が400あったBの場合、インボイス不発行事業者からの仕入については消費税を引くことができませんので、①売上に対する消費税50をそのまま納付することになります。
AとBを比較すると、Bの不発行事業者からの仕入の方が税負担が重くなるため、Aのようにインボイス発行事業者から仕入を行うようになります。
これはつまり、インボイス不発行事業者を取引から排除される可能性があるということです。
インボイス制度が開始した場合の小規模事業者の選択は…
この制度により取引が除外される可能性があるインボイス不発行事業者は、次の選択をする必要があります。
①あえて消費税の課税事業者になって消費税を納める
②消費税分以上の値下げをして取引ができるようにする
という選択をすることになります。
いずれの選択にしても、消費税の納税義務がない小規模事業者にとっては負担が重くなりますが、そもそも取引ができないとなると、①か②のどちらかの選択をするしかなくなります。
①については、消費税の課税事業者になるために『消費税課税事業者選択届出書』を税務署に提出することになりますが、消費税の課税事業者になる前年までに提出が必要になりますので、提出期限に注意が必要です。
また、②については値下げして、消費税の納付後の取引先の手元に残る資金を同じようにするということです。
売上500、仕入400の場合、差引100の資金が残っています。
もし仕入業者が値下げして仕入が360であれば、売上500-仕入360=140の資金が残ります。
100の資金が残っているAの場合と、140の資金が残っているBの場合で比較すると、
A 仕入400の場合 | B 仕入360の場合 | |
売上に対する消費税 | 50 | 50 |
仕入に対する消費税 | 40 | 0 |
納付する消費税 | 10 | 50 |
消費税納付後の資金の残り | 100-10=90 | 140-50=90 |
Bのように仕入を400から360に値下げすると、消費税の税負担分を取引先が負担しても資金が同じ90となりますので、値下げした仕入業者は取引に入ることができます。
この仕入業者の400から360への値下げは値下げ率が10%となり、単純に利益が10%減少することになりますので、小規模事業者はとても厳しい状況となります。
まとめ
働き方改革により、企業は雇用することが難しくなるため、個人事業主が増加することが考えられます。
しかし、インボイス制度が開始されると小規模事業者が事業を行っていくことが難しくなってしまいます。
今後インボイス制度が実際に施行されるかわかりませんが、もしインボイス制度が施行された場合に備えて売上の確保や資金の確保ができるよう準備しておきましょう。