会社や青色申告をしている個人事業主の方は、確定申告の時に資料を作成し、税務署などに提出しなければなりません。
その資料の中には、ご存知の方も多い損益計算書や貸借対照表があります。
損益計算書と貸借対照表が分からない方のためにご説明すると次のようなものです。
損益計算書…1年間の経営成績を表したもの。
貸借対照表…1年の最後の時点の財産状況を表したもの。
ざっくりと説明するとこのような違いがあります。
損益計算書が、1年間の売上や経費、利益を表しているのに対して、
貸借対照表は、現金預金の残高や売掛金・買掛金の残高、借入金の残高、資本金の残高などを表しています。
損益計算書が1年間の積上げで計算されるフローというものであるのに対し、貸借対照表は1年の最後の決算日時点の残高が表示されるストックというものであることに違いがあります。
この二つの資料はどちらもとても大事なものなのですが、中小企業や個人事業主の方は、分かりやすいのが売上や経費、利益であることから、損益計算書を重視しがちです。
しかし、損益計算書より大事なのは、本当は貸借対照表なのです。
その理由としては、貸借対照表をおろそかにすると事業が倒産してしまう可能性がある重大なことを見逃してしまうことにあります。
貸借対照表のチェックポイントを項目ごとにご説明します。
目次
貸借対照表のチェックポイント
現金預金
現金預金は説明不要ですが、経営者の方が一番気にしているものです。
一般的に現金預金は売上1か月分は最低限確保しておくべきといわれ、安全圏としては売上の3か月分の現金預金を確保しておくべきです。
例えば月間売上が1,000万円ほどであれば1,000万円×3か月=3,000万円の現金預金があれば安全圏といわれています。
この3か月分になるべき近づけるように銀行からの借入をおすすめします。
現金100万円で借入金0円のA社と、
現金1億100万円で、借入金1億のB社、
どちらも実質は100万円ですが、倒産しにくいのは現金をたくさん保有しているB社になります。
現金預金の残高がしっかり残っているかもう一度確認してみましょう。
売掛金
売掛金は取引先から未回収の売上債権のことで、いずれ回収できるお金ですが、いつ回収できるかということがとても重要です。
立場が強くない中小企業や個人事業主の方は取引先に言われるがまま、回収期限を長めに設定してしまい、売掛金の回収前に経費の支払いがあるため、資金繰りに厳しくなることがあります。
回収する期間のことを回収サイトといいますが、この売掛金回収サイトを短くし、早めに資金を回収できるよう心がけましょう。
棚卸資産
棚卸資産とは、商品を仕入れて未販売の在庫であったり、建設業者が工事に使用する材料を仕入れる場合で、未使用の材料などをいいます。
この棚卸資産は、まだ売上に結び付いていないため、経費にすることはできません。
棚卸資産が昨年と比較して増加している場合、前年から引き続き売れ残っていて、不良在庫になっているものがないかの確認が必要になります。
値引きセールなどにより販売するか、廃棄するなどして、実態に近い貸借対照表になるようにしましょう。
固定資産
固定資産は事業に使用する建物、土地、備品や機械、車両などのことですが、不要な固定資産の購入や所有がないかを確認しましょう。
そもそも事業用でなければ、固定資産とすることはできませんし、現在使用していない固定資産があれば、売却または廃棄を検討しましょう。
決算前に節税として資産を購入する方もいますが、必要な資産でない限りはお金が出ていくだけで節税にもなりませんので、注意が必要です。
買掛金
買掛金とは、商品などの仕入れを行い、支払いは後日という場合で仕入先に支払わなければならない債務のことです。
売上が増加すると、仕入れも同時に増えるため、買掛金が増加することがあります。
買掛金の支払いサイトは上述の売掛金とは反対に、長めに設定しておくと資金繰りが良くなります。
支払いサイトが長いと、売掛金の入金があってから支払うことができたりするため、資金集めに奔走する必要がなくなります。
借入金
借入金は事業を継続する上でとても重要なものです。
特に創業したての企業にとっては資金力がありませんので、銀行から融資を受けることができるかどうかで、事業の存続が決定する場面が多くあります。
しかし、借りすぎは事業の成長を止めてしまいます。
借りすぎかどうかを確認する計算式としては次の『債務償還年数』を計算してみてください。
債務償還年数=借入金残高÷税引き後利益
この計算式で10より小さい数字となった場合は、『10年以内に現在の借入金を利益で返済できる』という状態になりますので、借りすぎではない状態ということになります。
現金預金で説明した『適正な資金が確保できているか』という視点に加えて、『返済の見通しがたっているか』という視点をバランスよく持つ必要があります。
事業を継続する上では、融資の借りすぎもだめですが、借りなさすぎも良くないのです。
そのために毎月の経理をしっかり行い、資金の流れを把握していきましょう。
仮払金や役員貸付金
社長や役員が会社から借りている場合、貸借対照表には『役員貸付金』という勘定科目が表示されます。
この役員貸付金は決算時点でなるべく精算しておくことがとても重要です。
役員貸付金があるということは、役員報酬以外で役員が会社のお金を使用してることになります。
税務署としては、個人と法人の区別ができていない事業者という評価になり、税務調査でも個人の通帳も含めて調査対象となってしまいますので評価が良くありません。
また金融機関は、会社に貸したお金は会社の事業に使用してもらうためですが、それを個人で私的に使っているということは『使途流用』ということになり、当初の話と違うということになりますので、こちらも評価が良くありません。
交通費や飲食費分の経費を事前に役員に渡しておき、後日精算する場合、仮払金などで経理しておくこともありますが、これも必ず精算しなければ、役員が私的に使用していることと変わりありませんので、評価が良くありません。
仮払金や役員貸付金は必ず決算時点で精算し、貸借対照表に載らないようにしましょう。
まとめ
中小企業や個人事業主の方は将来何があるかわかりません。
いつ取引先が倒産するか、契約解除になってしまうかというリスクを背負っています。
できる限りの対策を事前に行っておきましょう。
貸借対照表は現在のリスクを把握できるとても重要な資料です。
決算前、確定申告前に必ず見直しして整理しましょう。